不動産M&Aとは?経営者が知るべき手法・メリット・注意点を徹底解説
「不動産を売却したいが、税負担を最小限に抑えたい」
「事業承継(場合によっては廃業)の際に不動産処分を同時に進めたいが、どうすればよいか」
経営者の中には、このような悩みや疑問点をお持ちの方もいると思います。
事業承継、または廃業の際に不動産を処分したい場合には、不動産売却ではなく不動産M&Aを検討するほうがよいケースもあります。
この記事では、不動産M&Aの基本知識から具体的なスキーム、メリット・デメリット、実施の流れまで詳しく解説します。
また、どのようなケースで不動産M&Aを行うことが有効であるのかについてもご説明します。
最後まで読めば、不動産M&Aが自社にとって最適な選択肢かどうかを判断できるでしょう。
1.不動産M&Aとは

会社間において行われる一般的なM&Aや不動産売買と比較すると、不動産M&Aにはいくつかの特徴があるといえます。
不動産M&Aを理解するために押さえておきたい事項は以下のとおりです。
- 不動産M&Aの定義
- 一般的なM&Aとの違い
- 一般的な不動産売買との違い
順に見ていきましょう。
(1)不動産M&Aの定義
不動産M&Aとは、対象となる会社が所有する不動産を売却するときに、会社ごと売却する手法を指します。
買い手側は会社の株式を取得するため、会社の全財産及び全債務を取得します。
したがって売り手側は株式譲渡により不動産以外の資産・負債も一緒に譲渡することになります。
(2)一般的なM&Aとの違い
一般的なM&Aと不動産M&Aの最大の違いは、その目的にあります。
一般的なM&Aは、売り手にとっては事業の継続や従業員の雇用の維持など、買い手にとっては既存事業の拡大や新規事業への参入、シナジー効果の創出などを目的として実施されます。
この場合、買い手は不動産を取得しますが、あくまで主な目的は経営権や事業の獲得です。
一方、不動産M&Aは不動産の取得そのものが主な目的であり、買い手は、特定の不動産を取得するために、その不動産を所有する会社ごと買収します。
そのため、不動産M&Aでは不動産の価値や立地、収益性が取引の中心的な評価要素となります。
(3)一般的な不動産売買との違い
一般的な不動産売買と不動産M&Aでは、譲渡の対象が根本的に異なります。
不動産売買では「不動産そのもの」が譲渡の対象となるのに対し、不動産M&Aでは「不動産を所有している会社の株式」が譲渡の対象です。
不動産売買では売買のときに不動産のみを精査(デューデリジェンス、DDとも言います)すればよいですが、不動産M&Aでは会社全体を精査(DD)する必要があります。
そのため、事業を継続する場合の不動産M&Aでは、公認会計士や弁護士などの専門家に依頼し、簿外債務や訴訟リスクの有無などの調査も合わせて実施されます。
また、売買に関する課税対象も両者で異なるのが特徴です。
通常の不動産売買(法人による物件売却)では、売却益に対して法人税等が課税されます(課税主体:売り手法人)。
一方、個人オーナーが保有する株式を譲渡する不動産M&Aでは、株式の譲渡益に対して個人の所得税(申告分離課税)が課税されます(課税主体:売り手個人)。
課税される税目と税率が根本的に異なる点が、両者の大きな違いです。
2.不動産M&Aの譲渡方法の種類

不動産M&Aを実施する際には、主に二つの譲渡方法が用いられます。
具体的には、以下のとおりです。

それぞれには特徴があり、状況に応じて最適な方法を選びましょう。
(1)株式譲渡スキーム
株式譲渡スキームは、不動産M&Aで最も一般的に用いられる手法です。
売り手の株主が保有する株式を、買い手に譲渡することで不動産を含む会社全体を移転させます。
株式譲渡は手続きが比較的シンプルで、株主総会の決議と株式譲渡契約の締結により実行することができます。
また、不動産の所有者はもとの会社のまま変わらないため、対象不動産の所有権移転登記が不要となり、原則として不動産の取得に伴う登録免許税や不動産取得税は発生しません。
ただし、会社全体を譲渡(譲受)することになるため、買い手は不要な資産や負債、簿外債務なども引き継ぐ可能性がある点に注意が必要です。
(2)会社分割+株式譲渡スキーム
会社分割+株式譲渡スキームは、新設分割と株式譲渡を組み合わせた手法です。
売り手が新会社を設立し、不動産事業とそれ以外の事業を分割したうえで不動産を保有する会社の株式を買い手の会社に譲渡して、不動産M&Aを完了させます。
この手法は、株式譲渡と比較すると手続きがやや複雑になります。
しかし、買い手は不動産や不動産を含む事業だけを取得できる点がメリットです。
さらに、組織再編税制の適格要件を満たせば、会社分割による税制上の不利益を避けることができます。
3.不動産M&Aのメリット・デメリット

不動産M&Aには、売り手・買い手双方にメリットとデメリットが存在します。
実施を検討する際には、これらを十分に理解したうえで判断することが重要です。
(1)メリット
不動産M&Aには、売り手・買い手双方にとって大きなメリットがあります。
具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 節税効果が期待できる
- 廃業コストを削減できる
- 雇用の維持が期待できる
- 希少な不動産を取得できる
順にご説明します。
1:節税効果が期待できる
不動産M&Aの最大のメリットは、不動産売買に比べ売り手にとって節税効果が期待できることです。
通常の不動産売買では、不動産売却益に対して約30~34%前後の法人税などが売り手側に課税されます。
さらに清算配当などを株主個人が受け取る段階でも、所得税・住民税を含めて最大で55%前後の税率が適用されるケースがあります。
一方で、個人オーナーが保有する株式を譲渡する不動産M&Aの場合、原則として株式譲渡益に対して20.315%の分離課税が適用されます。
そのため、売り手側はトータルの納税額を抑えられるというメリットがあります。
また、買い手にとっても、通常の不動産売買では不動産取得税や登記の変更に伴う登録免許税などが課されますが、不動産M&Aの場合には不動産の所有者は売り手側から移転しません。
これによって、買い手側も節税効果が期待できる点に大きな特徴があるといえます。
2:廃業コストを削減できる
会社を廃業する場合であっても、不動産M&Aを活用することで、廃業にかかるコストを大幅に削減できます。
通常の廃業では、オフィスや店舗、工場など建物や内装工事の解体費用や設備・在庫などの処分費用、登録免許税などを負担しなければなりません。
しかし、不動産M&Aでは建物などはもちろん、事業や店舗も含め買い手の会社に譲渡されます。
そのため、売り手は廃業に関連するコストを負担する必要がなくなります。
手元に会社を残さずにすむため、清算手続も不要です。
廃業を検討している会社にとって、不動産M&Aは経済的に有利な選択肢となる可能性があるといえるでしょう。
3:雇用の維持が期待できる
不動産M&Aでは、買い手会社が事業を継続する場合、従業員の雇用が守られる可能性が高まります。
売り手にとって、長年働いてくれた従業員の雇用を維持できることは大きな意義があります。
解散手続を選択すると、法人格が消滅することとなり、最終的に従業員は職を失うことになってしまいます。
しかし、不動産M&Aにより事業が継続されれば、従業員は引き続き働くことができるだけでなく、買い手の経営資源を活用することで、従業員のキャリアアップや待遇改善も期待できるでしょう。
4:希少な不動産を取得できる
買い手にとっては、希少な不動産や好立地の不動産を取得できる可能性が高い点がメリットです。
駅前、商店街、大きな道路沿いなどの一等地は法人所有のビルであることがほとんどで、こうした物件は市場に出回りにくいのが特徴ですが、不動産M&Aであれば他と競合せずに取得が可能となります。
(2)デメリット
不動産M&Aには多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在します。
具体的には、以下のとおりです。
- 通常の不動産売買より買い手が見つかりにくい
- 成約までに時間がかかる
- 節税メリットが得られないケースがある
- 手数料コストが高額になる
- 簿外債務など見えないリスクを抱える可能性がある
それぞれについて解説します。
1:通常の不動産売買より買い手が見つかりにくい
不動産M&Aでは、買い手を見つけることが難しい場合が多く、この点が売り手にとってのデメリットといえます。
これは、不動産だけでなく事業の一部もしくはすべてを含めた売却となるため、条件に合う買い手が限られることに理由があります。
特に事業で多額の負債がある場合などは、マッチする買い手が見つからないこともあるでしょう。
また、不動産M&Aは通常の不動産売買と比較して認知度が低く、潜在的な買い手が少ない傾向にあります。
2:成約までに時間がかかる
不動産M&Aは、通常の不動産売買と比較して成約までに長い期間を要する場合があります。
M&Aの基本合意から成約までには、通常3~6か月程度かかるのが一般的です。
これは、不動産M&Aが成約に至るまでにデューデリジェンス(企業調査)や不動産の価値評価、価格交渉、契約書の作成など、多くの手続きが必要となるためです。
また、会社全体を精査する必要があるため、不動産のみの売買と比較して調査範囲もかなり広くなります。
このように不動産M&Aは通常の売買と比べて条件によっては成約までにかかる期間が長期化する傾向があるため、売り手が現金化を急いでいる場合には検討が必要です。
3:節税メリットが得られないケースがある
先ほども述べたように、不動産M&Aは売り手・買い手双方にとって節税効果が期待できますが、すべてのケースがそれにあてはまるわけではありません。
会社分割+株式譲渡スキームでは組織再編税制の適格要件を満たさない場合、法人税や不動産取得税が課される可能性があります。
また、不動産の簿価(帳簿上の価格)と時価(実際の市場価格)の差が小さい場合、節税メリットが限定的になるケースがあります。
さらに、税制は頻繁に改正されるため、実施時点での税制によっては恩恵が受けられないこともあるでしょう。
4:手数料コストが高額になる
一般的に、M&Aでは、仲介会社へ依頼した場合は手数料が高額になる傾向があります。
M&Aの手順は複雑であり、その分だけ通常の売買よりも多額の手数料が発生するためです。
例えば、M&A仲介会社に支払う手数料としては、着手金、中間金、成功報酬などの各種手数料があります。
また、デューデリジェンス費用として、公認会計士や弁護士などの専門家への報酬も別途必要となります。
もっとも、不動産M&Aの実績が豊富な会社であれば、一概に手数料コストが高額になるとは言い切れないこともあります。
5:簿外債務など見えないリスクを抱える可能性がある
不動産M&Aでは、会社全体を取得するため、買い手は簿外債務などの潜在的なリスクを引き継ぐ可能性があります。
例えば、未払いの税金や訴訟リスク、環境汚染に関する債務やリスクなどが後から発覚するなど、貸借対照表に計上されていない債務や偶発債務が承継されるケースも考えられます。
また、従業員との労働トラブルや取引先との契約上の問題なども潜在的なリスクとなることを理解しておきましょう。
4.不動産M&Aが有効なパターン

すでに述べたように、不動産M&Aには売り手と買い手双方にメリットやデメリットがあります。
また、一定の流れで慎重に進めていくべきものといえます。
そのため、売り手会社が不動産を譲渡するケースのすべてで最適な選択肢とは限らないことに注意が必要です。
もっとも、以下のようなケースでは、売り手が不動産M&Aを行うことが適している可能性が高いといえます。
- 本業と直接関係のない不動産を売却したいケース
- 含み益が大きく、売り手が手取り額の最大化を目指したいケース
- 後継者不在で資産の整理を行いたいケース
- 事業継続を前提に不動産を譲渡したいケース
順に解説します。
(1)本業と直接関係のない不動産を売却したいケース
本業とは別に保有している不動産を売却したい場合、不動産売買よりも不動産M&Aを行うことが有効です。
具体的には、会社が高度経済成長期などに資産形成の一環として取得した不動産などがこれにあたります。
用途がない不動産であっても、保有し続けることで、固定資産税や都市計画税などの税金を支払い続けなければなりません。
また、このような不動産を売買によって譲渡する場合には、売却益に対して法人税などが課されるほか、事業用の不動産である場合には消費税が課されることもあるため、注意が必要です。
しかし、不動産M&Aによる会社分割+株式譲渡スキームを活用することで、本業と不動産事業を分離し、不動産を保有する会社の株式を買い手へ譲渡することができます。
このような対応によって、本業への影響を最小限に抑え、不動産事業のみを売却することが可能です。
(2)含み益が大きく、売り手が手取り額の最大化を目指したいケース
不動産の簿価(帳簿上の価格)と時価(実際の市場価格)の差が大きい場合は、不動産M&Aを行うことが有力な選択肢になります。
通常の不動産売買では、売り手会社に法人税などが課税され、その後に配当や清算を行った場合には、売り手会社の株主個人にも税金がかかり、トータルの税負担が重くなりがちです。
一方、資産管理会社の株式を個人オーナーが売却する形で不動産M&Aを行う場合、課税対象は「株式譲渡益」が中心となります。
個人株主による株式譲渡益は原則として20.315%の分離課税となるため、物件売却+清算と比較しても、税負担が低く収まるケースも少なくありません。
逆に、不動産を会社で売却し、その後清算して残余財産を株主が受け取る形を取ると、法人税と個人課税を合わせた税負担が高額になることもあります。
「含み益が大きい不動産をどう処分するか」という観点では、不動産M&Aの方が手取り額を大きくしやすいケースが多いため、手取り最大化を目指すオーナーにとって、検討する価値が高い方法といえるでしょう。
(3)後継者不在で資産の整理を行いたいケース
後継者がいない中小企業のオーナーが、引退に向けて資産を整理したい場合も不動産M&Aを検討することがおすすめです。
具体的には、不動産賃貸業などを営む会社で、親族や従業員に後継者となる人員がいない状況が該当します。
このような場合に廃業を選択すると、設備や在庫などの処分費用や会社の解散に伴う清算費用が発生します。
しかし、不動産M&Aを活用すれば廃業コストを削減して、まとまった現金を得ることができる可能性があります。
さらに、従業員の雇用を維持できるため、資金的にも従業員への責任といった観点でもおすすめの選択肢といえるでしょう。
(4)事業継続を前提に不動産を譲渡したいケース
不動産と事業を一体として承継したい場合も、不動産M&Aが最適です。
例えば、地域に根ざした老舗会社が、不動産と事業の両方を次世代に引き継ぎたいケースが該当します。
このような場合、単なる不動産売却では、事業の継続や従業員の雇用維持が困難になることがありますが、不動産M&Aであれば、買い手が事業を継続することを前提に交渉を進めることが可能です。
また、買い手の経営資源やノウハウを活用することで、事業のさらなる発展も期待できるでしょう。
5.不動産M&Aの全体像
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不動産M&Aを成功させるためには、全体の流れを理解しておくことが重要です。
一般的なM&Aのフローに則ると、以下の流れで進めていきます。
- 検討・準備
- マッチング
- デューデリジェンス
- 価格・条件交渉
- 契約締結・クロージング
- PMI(統合プロセス)
それぞれのステップの内容やポイントについてご説明します。
(1)検討・準備
不動産M&Aの第一段階は、検討と準備のフェーズです。
売り手は、不動産M&Aを実施する目的や期待する成果について明確化します。
具体的には、売却価格の目標設定、希望するスケジュール、譲渡後の事業継続の可否などをしっかり検討しておきましょう。
この段階で十分な準備をしておくことが、その後のプロセスをスムーズに進めるために重要です。
(2)マッチング
マッチングとは、売り手と買い手候補を結びつけることです。
まずM&A仲介会社に依頼する場合は、売買の対象とする会社(対象会社と言われることもあります)の情報を匿名化したノンネームシート(ティーザーと言われることもあります)を作成し、買い手候補に提示します。
買い手候補が興味を示した場合、秘密保持契約(NDA)を締結したうえで、より詳細な会社情報を開示する流れです。
そして、双方の条件が合致すれば、トップ面談を実施し、経営者同士が直接対話します。
この段階で、互いの経営方針や会社文化、取引に対する考え方などを確認し合い、マッチングが成功すれば、基本合意書の締結へと進みます。
(3)デューデリジェンス
デューデリジェンスは、買い手が対象会社を詳細に調査するプロセスです。
このデューデリジェンスにより、対象会社の詳細を調査し、買い手はM&Aを実施するかどうかを決定します。
基本合意書を締結した後、買い手は専門家を起用して対象会社の実態を調査します。
主に「財務」、「法務」、「不動産」などの分野でデューデリジェンスが行われ、それぞれ以下のような内容の調査が実施されるのが一般的です。
| デューデリジェンスの種類 | 内容 |
| 財務デューデリジェンス | 財務諸表の正確性や簿外債務の有無などを確認する |
| 法務デューデリジェンス | 契約関係、訴訟リスク、コンプライアンス状況などを調査する |
| 不動産デューデリジェンス | 対象不動産の権利関係、建物の状況、収益性などを詳細に検証する |
この調査結果に基づいて、買い手は最終的な買収価格や条件を決定していきます。
(4)価格・条件交渉
デューデリジェンスの結果を踏まえて、最終的な価格と条件の交渉を進めます。
この際に調査で発見された問題点やリスクに応じて、当初の提示価格から調整が入ることもあります。
なお、交渉条件には譲渡価格だけでなく従業員の処遇や経営者の処遇、取引先との関係維持なども含まれるのが一般的です。
最終的に双方が合意に達すれば、最終契約書の作成へと進みます。
(5)契約締結・クロージング
価格と条件が確定すると、最終契約書を締結します。
株式譲渡契約書には、譲渡価格、支払条件、表明保証、誓約事項などが詳細に記載されます。
また、クロージング条件(契約の効力発生条件)も明記され、これらが満たされた時点で正式に株式が移転します。
クロージング日には、対価の支払いと株式の譲渡が同時に行われ、さらに株主名簿の書き換えや役員の変更登記なども実施します。
(6)PMI(統合プロセス)
PMI(Post Merger Integration)は、M&A成約後の統合プロセスです。
具体的には、経営体制の整備、業務プロセスの統合、ITシステムの統合などを実施します。
また、従業員とのコミュニケーションを密にし、組織文化の融合を図ることも重要です。
不動産M&Aでは、不動産の管理・運営体制の整備のほかにも、テナントとの関係維持なども含めて、慎重に統合後の施策を実行する必要があります。
6.不動産M&Aの注意点・失敗パターン

不動産M&Aには多くのメリットがありますが、注意すべき点も存在します。
特に買い手と売り手の双方が意識すべきポイントとして、以下のようなものが挙げられます。
- 簿外債務・担保リスクの見落とし
- 税務上の適格要件を満たさないケース
- 簿価と時価の乖離による価格トラブル
- PMI(統合プロセス)後に発生する運営・人員トラブル
これから不動産M&Aを進めることを検討されている場合には、注意が必要です。
(1)簿外債務・担保リスクの見落とし
不動産M&Aで買い手が最も注意すべきは、簿外債務や担保リスクの見落としです。
貸借対照表に計上されていない債務が後から発覚すると、買い手は予期せぬ負担を強いられることになります。
例えば、未払いの税金、従業員への退職金債務、取引先への保証債務などが後から発覚することもあるので注意が必要です。
これらのリスクを回避するには、買収前に徹底的なデューデリジェンスを実施することが不可欠といえます。
財務・法務・不動産の各分野で専門家を起用し、潜在的なリスクを洗い出しましょう。
(2)税務上の適格要件を満たさないケース
会社分割+株式譲渡スキームでは組織再編税制の適格要件を満たさないと、税制優遇を受けることができません。
仮に適格要件を満たさない場合、売り手に法人税が課されるほか、対象会社の株主に対する所得税が課される可能性があります。
また、買い手にも不動産取得税が課されてしまうこともあります。
そうなると期待していた節税メリットが得られず、通常の不動産売買と変わらない税負担となる可能性があります。
会社分割+株式譲渡スキームを検討する際は、必ず税理士などの専門家に相談しましょう。
事前に税務上の要件を確認し、適格要件を満たすようにスキームを設計することが重要です。
(3)簿価と時価の乖離による価格トラブル
不動産の簿価(帳簿上の価格)と時価(実際の市場価格)の乖離が大きい場合、価格交渉でトラブルになることがあります。
売り手は不動産の含み益を考慮せず、不動産の相場価格を基準に高い価格を期待しますが、買い手は簿価を考慮した価格を提示するような事態が起こりうるからです。
また、買い手がデューデリジェンスで不動産の問題点を発見し、当初の提示価格から大幅に減額されることもあります。
このようなトラブルを避けるためには、事前に不動産の適正な評価を行うことが重要です。
具体的には不動産鑑定士による鑑定評価を取得し、客観的な価格の目安を把握しておきましょう。
また、価格の算定根拠を明確にし、双方が納得できる説明ができるようにしておくのも大切です。
(4)PMI(統合プロセス)後に発生する運営・人員トラブル
不動産M&A成約後、PMI(統合プロセス)で運営や人員に関するトラブルが発生することがあります。
買い手の経営方針や会社文化が売り手会社と大きく異なる場合、従業員が反発して辞めてしまうような事態も起こり得るでしょう。
また、不動産の管理・運営方法の変更により、テナントとの関係が悪化したりキーパーソンとなる従業員が退職したりしてしまうと、事業の継続に支障が出るリスクもあります。
これらのトラブルを防ぐためには、売り手と買い手がM&A成約前から丁寧なコミュニケーションを心がけることが重要です。
7.不動産M&Aについてよくある質問

上記のように、不動産M&Aにはメリットやデメリットのほかにも、様々な注意点などがあります。
特に会社の経営者からは以下のような質問が寄せられることが多いです。
- 不動産M&Aと不動産業のM&Aの違いはなんですか?
- 不動産M&Aは個人でも行うことができますか?
- 節税になるのはどのようなケースですか?
- どのように買い手を見つければよいですか?
それぞれの質問に対する回答を見ていきましょう。
(1)不動産M&Aと不動産業のM&Aの違いはなんですか?
不動産M&Aと不動産業のM&Aは、目的と対象が異なります。
不動産M&Aは、会社が保有する「不動産の取得」を主な目的として実施されるM&Aであり、買い手の関心は、対象会社が所有する特定の不動産にあります。
一方、不動産業のM&Aは、不動産関連事業を営む「会社の事業」を買収することが目的です。
これは不動産仲介業、不動産管理業、不動産開発業などを営む会社を対象としたM&Aを指します。
したがって、不動産M&Aは「不動産」が主目的、不動産業のM&Aは「事業」が主目的という違いがあります。
(2)不動産M&Aは個人が売主でも行うことができますか?
不動産M&Aは、基本的には法人が所有する不動産を対象とした手法です。
個人が直接所有する不動産の売却には、不動産M&Aの譲渡方法は適用できません。
ただし、個人が資産管理会社を設立し、その会社に不動産を保有させている場合は可能です。
その場合、資産管理会社の株式を譲渡する形で不動産M&Aを実施することができます。
個人オーナーで資産管理会社を通じて不動産を保有している方は、不動産M&Aの活用を検討できるでしょう。
(3)節税になるのはどのようなケースですか?
不動産M&Aで節税効果が高いのは、不動産の含み益が大きいケースです。
具体的には、不動産の簿価(帳簿上の価格)を時価(実際の市場価格)が大きく上回っている場合です。
通常の不動産売却では、売却益に対して約30%前後の法人税などが課され、その後の配当についても、所得水準によっては最大で約55%前後の税率が適用されるケースがあります。
一方で資産管理会社の株式を個人株主が売却する形の不動産M&Aの場合は、株式譲渡益に対して原則20.315%(所得税・住民税合計)の分離課税となるため、物件売却+清算と比べて節税効果が大きくなるケースが多いです。
(4)どのように買い手を見つければよいですか?
不動産M&Aの買い手を見つけるには、不動産M&Aの実績がある会社や税理士、金融機関などアドバイザーの活用がおすすめです。
M&A仲介会社は、独自のネットワークを持ち、多数の買い手候補会社とつながりがあります。
また、業界特化型の仲介会社であれば、不動産M&Aの実績やノウハウも豊富です。
このような専門家に依頼することで、守秘義務を保ちながら幅広く買い手候補を探すことができるでしょう。
まとめ
不動産M&Aは、会社が保有する不動産を取得するための有効な手段です。
特に不動産の含み益が大きい場合、売り手は高い節税効果を享受でき、さらに廃業コストの削減や雇用の維持など、多面的なメリットがあります。
一方で、場合によっては手数料の高さ、買い手探しの難しさなどのデメリットがある点には注意が必要です。
不動産M&Aを検討する際は、税理士やM&Aアドバイザーなどの専門家に相談し、自社にとって最適な選択肢かを慎重に判断しましょう。
監修者
稲葉 孝史
税理士
株式会社シルスフィア会計事務所 代表取締役。シルスフィア税理士事務所 代表税理士。
中小企業の会計税務業務に加え、SPCを利用した不動産証券化や事業再生などの特殊業務に従事している。過去には、不動産証券化協会(ARES)認定マスター制度の資格試験において、テキスト執筆や講師、試験問題作成委員などを担当した経歴を持ち、不動産証券化分野で豊富なノウハウと実績を有する。
株式会社シルスフィア会計事務所 代表取締役。シルスフィア税理士事務所 代表税理士。
中小企業の会計税務業務に加え、SPCを利用した不動産証券化や事業再生などの特殊業務に従事している。過去には、不動産証券化協会(ARES)認定マスター制度の資格試験において、テキスト執筆や講師、試験問題作成委員などを担当した経歴を持ち、不動産証券化分野で豊富なノウハウと実績を有する。
監修者
塚田 拓士
不動産鑑定士
新卒で東京国税局に入局し、相続税の税務調査を担当しながら不動産鑑定士試験に合格。2007年にフィンテックグローバル(FGI)に入社し、事業再生、事業承継投資やPMI等を経験したのち、不動産M&Aによる投資事業を始め、FGIの主要事業に育てた。現在は不動産M&Aや投資商品の販売を推進している。
新卒で東京国税局に入局し、相続税の税務調査を担当しながら不動産鑑定士試験に合格。2007年にフィンテックグローバル(FGI)に入社し、事業再生、事業承継投資やPMI等を経験したのち、不動産M&Aによる投資事業を始め、FGIの主要事業に育てた。現在は不動産M&Aや投資商品の販売を推進している。