資産管理会社のメリットとは?設立の目安やデメリット・手順まで徹底解説
「資産管理会社を設立するメリットが知りたい」
「設立を検討するにあたって考慮すべきデメリットや注意点は?」
資産管理会社とは、不動産や株式などの資産を管理・運用する目的で設立する法人のことです。
個人と比較して税負担が低い場合があるほか、経費計上の範囲拡大や相続対策など、様々なメリットが期待できます。
一方で設立・維持コストや事務負担の増加といったデメリットも存在するため、自分の状況に合った判断が不可欠です。
この記事では、資産管理会社を設立するメリットとデメリット、株式会社・合同会社の比較、メリットを最大化するコツまでを網羅的に解説しています。
最後まで読めば、資産管理会社が自分にとって有効な選択肢かどうかを判断し、具体的な行動に移せるようになるでしょう。
1.資産管理会社とは

資産管理会社とは、オーナーが保有する不動産や有価証券といった資産の管理・運用に特化した法人です。
通常の事業会社のように外部へ商品を販売したりサービスを提供したりすることはなく、保有資産から得られる賃料収入や配当金を法人の収益とする点に特徴があります。
「プライベートカンパニー」という別名でも知られており、資産家の間では広く浸透している仕組みです。
以前は富裕層が活用する手法というイメージが強かったものの、近年は個人投資家やサラリーマン投資家の間でも関心が高まっています。
会社法の改正により合同会社の設立費用がおよそ10万円前後まで下がり、設立に対するハードルが低くなったことも注目を集めるようになった要因の一つです。
2.資産管理会社を設立する7つのメリット

資産管理会社を設立することで、個人のままでは得られない税制上の恩恵や資産管理の効率化が実現します。
- 税負担を軽減できる
- 家族への所得分散ができる
- 経費計上の範囲が広がる
- 相続税対策として資産を株式化できる
- 繰越控除の期間が最長10年に延長される
- 損益通算の範囲が広がる
- 社会保険(厚生年金)に加入できる
ここでは代表的な七つのメリットについて解説します。
(1)税負担を軽減できる
資産管理会社の設立で最も注目されるのは、個人と法人の税率差を利用した税務上のメリットです。
個人の所得税は累進課税で、所得が増えるほど税率が上がり、最高税率は45%で、住民税(所得割)なども合わせると負担は大きくなります。
一方、法人の利益には法人税(国税)に加えて、法人住民税・事業税などの地方税もかかります。
これらを合算した実効負担は、利益規模や自治体によって差はあるものの、一般に「30%前後」と説明されることが多いです。
そのため、所得水準が上がって個人の税率が高くなるほど、法人を使った設計が有利になるケースがあります。
ただし、法人に残した利益を役員報酬や配当で個人に戻すと個人側にも課税されるため、「法人化=必ず税負担が軽減される」とは言い切れません。
設立・維持コストも含め、事前に試算したうえで判断しましょう。
(2)家族への所得分散ができる
資産管理会社を活用すれば、配偶者や子どもを役員に据えて報酬を支給する形で所得を分けられます。
オーナー1人に偏っていた収入を複数の家族に配分することで、それぞれに適用される税率が下がり、世帯全体で見た納税額の圧縮につながるでしょう。
さらに、家族が受け取る役員報酬には給与所得控除が適用されるため、課税対象額そのものを圧縮できる点もメリットです。
ただし、役員報酬を支払う家族に勤務実態がない場合は税務調査で否認されるリスクがあります。
そのため、実際に経理や物件管理などの業務を担当してもらい、勤務実態を明確にしておくことが重要です。
(3)経費計上の範囲が広がる
法人化することで、個人では認められない支出も経費(損金)として計上できるようになります。
代表的な経費項目としては、以下が挙げられるでしょう。
- 役員報酬および退職金
- 法人契約の生命保険料(一定の要件を満たした場合)
- 旅費規程に基づく日当
- 法人名義の社宅費用(一定の自己負担を除いた部分)
- 法人契約の自動車関連費用
経費に計上できる範囲が広がれば課税所得を圧縮でき、結果として納税額を抑えることにつながります。
ただし、事業と関連性のない支出を経費に計上すると税務上の問題が発生するため、計上する経費の妥当性には注意を払いましょう。
(4)相続税対策として資産を株式化できる
個人で不動産を直接所有している場合、相続時の評価方法に対して対策が立てにくい傾向にあります。
一方、資産管理会社の株式であれば、類似業種比準方式や純資産方式を活用した株価対策により評価額を引き下げられる可能性があります。
ただし、不動産を主な資産とする資産管理会社は「土地保有特定会社」に該当し、評価額の低くなりやすい類似業種比準方式を使えず、純資産価額方式のみが適用されるケースが多い点に注意が必要です。
さらに、国税庁は2026年から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催しており、類似業種比準方式の廃止や新たな評価方式(残余利益方式)の導入など、非上場株式の評価制度そのものを抜本的に見直す議論が進んでいます。
改正が実現すれば、早ければ2028(令和10)年頃から新方式が適用される可能性も報じられています(2026年9月時点で正式決定ではありません)。
株価対策の効果は現行制度を前提としたものであり、将来の通達改正により大きく変わりうるため、資産管理会社の設立や株式承継を検討する際は、この見直し動向を踏まえて税理士と継続的に相談しながら進めることをおすすめします。
さらに、株式は口数で分割できるため、相続人が複数いる場合でも遺産分割がスムーズに進みやすくなります。
また、資産が不動産の場合個人名義で生前贈与すると登記費用や不動産取得税が発生しますが、法人株式の贈与であれば登記関連の費用が不要になるのもメリットです。
(5)繰越控除の期間が最長10年に延長される
法人では、事業で発生した赤字(欠損金)を翌年度以降に繰り越して黒字と相殺できる期間が、個人よりも大幅に長くなります。
| 比較項目 | 個人 | 法人 |
| 欠損金の繰越控除期間 | 最長3年 | 最長10年 |
個人の場合は青色申告を行っていても繰越控除は3年が上限です。
しかし法人であれば最長10年間にわたり欠損金を繰り越せます。
不動産投資では物件を取得した初年度に多額の経費が発生するケースも多いため、10年間の繰越控除は資産管理会社ならではの大きなメリットといえます。
(6)損益通算の範囲が広がる
法人では、所得の種類に関係なくすべての損益を通算できる点も個人にはない強みです。
個人の場合、不動産所得の赤字は給与所得など他の所得と損益通算できます。
ただし、その赤字が土地などを取得するための借入金の利子から生じている場合、その利子相当部分は損益通算の対象外となる点に注意が必要です(租税特別措置法41条の4)。
特にフルローンで土地付き物件を取得する場合は、想定より通算できる赤字額が少なくなる可能性があります。
一方、法人であれば不動産の売却益と株式の売却損を相殺したり、本業の利益と投資の損失を合算したりすることが可能になります。
複数の資産運用を並行して行っている場合、法人での損益通算は税負担の平準化に大きく貢献するでしょう。
(7)社会保険(厚生年金)に加入できる
資産管理会社から役員報酬を受け取る形にすると、オーナーは健康保険・厚生年金の被保険者となります。
国民年金だけでは老後の受給額に不安が残りますが、厚生年金に加入すれば報酬額に応じた上乗せ分が見込めるでしょう。
加えて、被扶養者の要件を満たす配偶者がいれば、追加の保険料を負担せずに健康保険の恩恵を受けられる点も利点です。
ただし、役員報酬の金額を極端に低く設定すると、社会保険料の負担は抑えられる反面、将来の年金受給額も減少してしまいます。
税務上の効果と将来の年金額のバランスを考慮して、適切な報酬水準を設定することが大切です。
3.資産管理会社を設立するデメリット・注意点

資産管理会社は万能ではなく、運用上のデメリットや注意すべきリスクもあります。
- 設立費用と維持コストが発生する
- 法人保有の資産は個人で自由に使えない
- 長期譲渡所得の税制優遇が受けられない
- 事務負担・税務申告の手間が増える
- 廃業時の手続きが複雑になる
設立を決断する前に、以下の五つのポイントを必ず確認しておきましょう。
(1)設立費用と維持コストが発生する
資産管理会社を立ち上げるには、法人形態に応じた初期費用を見込んでおく必要があります。
目安として、株式会社で約25万円、合同会社で約10万円の登記関連費用が発生します。
それに加え、ランニングコストも軽視できません。
法人住民税の均等割は赤字の年でも課されるうえ、税理士報酬は年間で数十万円ほどが相場となっています。
決算申告の費用なども含めると更に固定費が見込まれるため、軽減できる税負担の額がこれらを上回るかどうかを慎重に試算しましょう。
(2)法人保有の資産は個人で自由に使えない
法人の財産はオーナー個人のものとは法的に区分されるため、たとえ自分が設立した会社であっても自由に引き出すことはできません。
個人の生活費に使いたい場合は、役員報酬や配当として法人から正規の手続きを経て受け取る必要があります。
なかでも役員報酬は「定期同額給与」のルールがあり、一度決めた金額を事業年度の途中で変更することが原則として認められていません。
資産管理会社の資金をオーナーの個人的な支出にあてることは認められないため、公私を明確に区分する意識が求められるでしょう。
(3)長期譲渡所得の税制優遇が受けられない
不動産を5年を超えて保有して売却する場合、個人は長期譲渡所得として税率が軽減されます。
長期保有の不動産を売却する場面では、個人のほうが約10%も税率が低くなるケースがあります。
ただし、不動産の譲渡所得の税率区分は、実際の保有期間ではなく、「譲渡した年の1月1日時点」での所有期間が5年を超えるかどうかで判定されます(長期譲渡所得:所得税15.315%+住民税5%の合計約20.315%、短期譲渡所得:合計約39.63%)。
そのため、取得から5年が経過していても、譲渡年の1月1日時点でまだ5年を超えていなければ短期譲渡として扱われる点に注意が必要です。
一方、法人は長期・短期の区分がなく、売却益はほかの所得と合算して課税されるため、長期保有物件を売却する局面では個人より不利になるケースがあります。
そのため、不動産の売却を想定している場合は、保有名義を含めて事前にシミュレーションすることが重要です。
| 比較項目 | 個人(5年超保有) | 法人 |
| 不動産譲渡益の税率 | 約20%(長期譲渡所得) | 実効税率おおむね30%前後 |
| 短期譲渡(5年以内)の税率 | 約39% | 実効税率おおむね30%前後 |
短期譲渡(保有5年以内)の場合は個人のほうが税率が高いため法人が有利ですが、長期保有を前提とする場合はこのデメリットを十分に考慮する必要があります。
不動産の売却計画がある場合は、個人名義で保有し続けるほうがよいケースもあるため、出口戦略を含めたシミュレーションが欠かせません。
(4)事務負担・税務申告の手間が増える
法人を運営すると、個人では不要だった様々な事務作業が発生します。
具体的には、法人税の申告書作成、帳簿管理、源泉徴収の計算・納付、年末調整、給与支払報告書の提出などです。
個人事業主の確定申告と比較して法人の決算申告は格段に複雑であり、多くの場合は税理士に依頼することになります。
税理士費用は前述のように年間で数十万円程度が相場ですが、記帳代行まで依頼する場合はさらに費用が上乗せされる点も把握しておきましょう。
(5)廃業時の手続きが複雑になる
資産管理会社を廃業する際の手続きは、個人事業の廃業届と比較して大幅に複雑です。
解散決議後に官報への公告掲載が必要で、債権者保護手続きを経たうえで清算結了の登記を行わなければなりません。
清算事務には通常は数か月以上かかり、司法書士や税理士への報酬も発生します。
さらに、清算時に法人に残った資産を個人に分配する残余財産の分配は、みなし配当として課税される可能性があるでしょう。
設立したら簡単にはやめられないことを前提に、長期的な視点で設立を判断することが重要です。
4.資産管理会社の形態別メリット・デメリットを比較

資産管理会社の法人格としては「株式会社」と「合同会社」が主な選択肢です。
それぞれの長所と短所を把握したうえで、自身の運用目的に合った形態を選びましょう。
(1)株式会社のメリット
株式会社には、以下のメリットがあります。
- 社会的信用が高く融資を受けやすい
- 株式の保有割合で経営権をコントロールできる
- 株式を活用した相続・承継がしやすい
1:社会的信用力が高く融資を受けやすい
株式会社は日本で最も広く認知された法人形態であり、金融機関や取引先からの信用力が高い傾向にあります。
合同会社は2006年の会社法改正で誕生した比較的新しい形態であり、設立ハードルが低いことから信用度がやや低いと評価されるケースも否定できません。
融資を積極的に活用して不動産を取得する計画がある場合は、株式会社を選ぶメリットが大きいでしょう。
2:株式の保有割合で経営権をコントロールできる
株式会社では、株式の保有割合に応じて議決権が決まるため、経営権を柔軟にコントロールできます。
例えば、オーナーが議決権の過半数を保持しつつ、家族に少数株式を分配するといった設計が可能です。
将来的に経営権を移譲する際も、株式の譲渡・贈与によって段階的に進められる点に魅力があります。
3:株式を活用した相続・承継がしやすい
株式会社であれば、種類株式を発行して、財産権と経営権を分離した承継設計が可能です。
例えば、後継者には議決権付き株式を、それ以外の相続人には配当優先株式を割り当てるなど、柔軟な相続対策を実現できます。
この点は合同会社にはない株式会社特有のメリットであり、相続を見据えた長期的な資産管理には大きな強みとなるでしょう。
(2)株式会社のデメリット
一方で、株式会社には以下のデメリットもあります。
- 設立費用が合同会社より高い
- 役員任期があり変更登記の費用が発生する
- 決算公告の義務がある
1:設立費用が合同会社より高い
株式会社の設立にはおよそ25万円前後の費用がかかり、合同会社のおよそ10万円前後と比較すると約14万円の差があります。
また、定款認証に約3万〜5万円、登録免許税が最低15万円と、初期コストが高い点は無視できないでしょう。
2:役員任期があり変更登記の費用が発生する
株式会社の取締役には原則2年(非公開会社は最長10年まで延長可能)の任期が定められています。
任期満了のたびに役員変更登記が必要となり、登記費用として1万円の登録免許税に加えて司法書士への報酬も発生するでしょう。
資産管理会社のように少人数で運営する法人にとって、この定期的なコストは長期的には負担になります。
3:決算公告の義務がある
株式会社は各事業年度の決算について、官報や自社Webサイトなどで公告する義務を負っています。
実務上は公告を省略している中小企業も少なくありませんが、法律上の義務である以上、リスクとして認識しておく必要があるでしょう。
(3)合同会社のメリット
合同会社には、資産管理会社として特に有利な以下のメリットがあります。
- 設立費用・維持コストが低い
- 役員の任期がなくランニングコストを抑えられる
- 意思決定がスピーディーで運営が柔軟
- 決算公告が不要でプライバシーが守られる
1:設立費用・維持コストが低い
合同会社の設立費用はおよそ10万円前後と、株式会社の約半分以下に抑えられます。
定款認証が不要なため公証人手数料(約3万〜5万円)も節約でき、設立までの期間も短縮できるでしょう。
2:役員の任期がなくランニングコストを抑えられる
合同会社の業務執行社員には法定の任期が存在しないため、株式会社のような定期的な役員改選手続きが不要です。
そのため、登記費用や司法書士報酬を削減でき、長い目で見たコスト差は意外と大きくなります。
3:意思決定がスピーディーで運営が柔軟
合同会社は株主総会や取締役会といった機関設計が不要で、社員(出資者)の合意のみで意思決定が可能です。
資産管理会社のように少人数で運営する法人にとって、迅速な意思決定は大きなメリットとなるでしょう。
4:決算公告が不要でプライバシーが守られる
合同会社は株式会社と異なり、決算公告の義務がありません。
財務情報を外部に開示する必要がないため、資産の規模や収益状況を公にしたくないオーナーにとってはプライバシー保護の観点で有利です。
(4)合同会社のデメリット
ただし、合同会社には以下のデメリットもあります。
- 社会的信用度が株式会社より低い傾向にある
- 株式による資金調達ができない
- 社員が1人の場合は死亡時に自動解散となるリスクがある
- 社員変更時に定款の見直しが必要になる
1:社会的信用度が株式会社より低い傾向にある
合同会社は株式会社と比較して認知度が低く、金融機関の融資審査でわずかに不利になる場合があります。
ただし、資産管理会社は対外的な営業活動をほとんど行わないため、実務上大きな問題にならないケースも多いでしょう。
2:株式による資金調達ができない
合同会社には「株式」が存在しないため、株式を発行して外部から資金調達を行う手段がありません。
追加の資金が必要な場合は、社員(出資者)からの追加出資や金融機関からの融資で対応することになります。
3:社員が1人の場合は死亡時に自動解散となるリスクがある
合同会社では、社員(出資者)が1人の場合にその社員が死亡すると、法律上は自動的に解散となるリスクがあります。
定款に「社員の持分を相続人が承継する」旨の規定を入れておけば回避できますが、設立時に見落とされやすい重要なポイントです。
相続対策として資産管理会社を設立する場合は、必ずこの規定を定款に盛り込んでおきましょう。
4:社員変更時に定款の見直しが必要になる
合同会社では出資者(社員)の変更があるたびに定款も変更する必要があります。
株式会社の株式譲渡と比較すると手続きがやや煩雑であり、相続や事業承継のタイミングで手間がかかる点はデメリットです。
5.資産管理会社のメリットを最大化する5つのコツ

資産管理会社を設立しても、運用方法を誤ると期待したメリットを得られないケースがあります。
以下の五つのコツを実践して、メリットを最大限に引き出しましょう。
- 設立時にシミュレーションを徹底する
- 役員報酬の金額設定を最適化する
- 経費計上できる項目を漏れなく活用する
- 不動産の所有形態を戦略的に選ぶ
- 税理士・専門家と連携して運用する
(1)設立前にシミュレーションを徹底する
資産管理会社のメリットを最大化するうえで、最も重要なのが設立前のシミュレーションです。
維持コストが税務上のメリットを上回る状態では、結局のところコスト負担が大きくなり、設立した意味がなくなってしまいます。
具体的には、現在の所得水準・保有資産の種類と規模・今後の収入見通し・相続の有無などを総合的に数値化し、個人のまま運用し続けた場合と法人化した場合のトータルコストを比較することが大切です。
5年・10年単位の長期シミュレーションを行うことで、短期的な視点だけでは見えない本質的なメリット・デメリットが明らかになるでしょう。
(2)役員報酬の金額設定を最適化する
役員報酬の設定は、法人と個人のトータルの税負担を左右する最重要ポイントの一つです。
報酬を高くしすぎると個人の所得税・住民税が膨らみ、反対に低くしすぎると法人に利益が溜まって法人税の負担が増加します。
さらに、役員報酬を極端に低く設定すると社会保険料は安くなるものの、将来の年金受給額が減少するというトレードオフも発生するでしょう。
役員報酬は定期同額給与のルールにより原則として年度途中での変更ができないため、期初の設定段階でバランスを慎重に見極める必要があります。
税理士と連携し、税負担と社会保険の両面から最適な金額をシミュレーションしましょう。
(3)経費計上できる項目を漏れなく活用する
法人で認められる経費を漏れなく活用することが、税務上のメリットを最大化するカギとなります。
役員報酬や退職金といった主要項目だけでなく、旅費日当の支給、法人契約の生命保険や社宅制度なども、要件を満たせば経費として計上することが可能です。
ただし、事業との関連性がない支出を無理に経費計上すると税務調査で否認されるリスクがあるため、適正な範囲を守ることが前提となります。
定期的に税理士と経費項目を棚卸しし、活用できる制度に漏れがないか確認する習慣をつけましょう。
(4)不動産の所有形態を戦略的に選ぶ
資産管理会社で不動産を扱う場合、どの所有形態を選ぶかによって税務上の効果は大きく変わります。
不動産保有型(法人が直接所有)は税負担の軽減効果が最も高い反面、個人から法人への移転コストが発生する点がネックです。
管理委託型やサブリース型であれば移転コストを抑えられますが、法人に移転できる所得が限定されるため税負担の軽減効果も限定的となるでしょう。
今後新たに不動産を取得する予定がある場合は、購入前に法人を設立して最初から法人名義で取得すれば移転コストをゼロに抑えられます。
現在の保有状況と今後の取得計画を踏まえて、最適な所有形態を戦略的に選択することが重要です。
(5)税理士・専門家と連携して運用する
「資産管理会社、特にマイクロ法人は規模が小さいから税理士は不要」という意見を耳にすることがありますが、これは誤った認識です。
法人の決算申告は個人の確定申告と比較して格段に複雑であり、税法などの改正にも継続的に対応する必要があります。
役員報酬の最適設定や経費計上の適正化、相続対策の設計など、専門知識がなければ対応しきれないテーマも多いでしょう。
税理士との顧問契約によるコスト以上のメリットを得られるケースがほとんどであり、設立段階から専門家と連携することが資産管理会社の成功に直結します。
6.資産管理会社のデメリットを回避するための対策

デメリットを事前に把握し、適切な対策を講じることで、資産管理会社のリスクを最小限に抑えられます。
- 資本金は1,000万円未満に設定して消費税免除を活用する
- 個人資産の移転時にかかる税金を事前に把握しておく
- 将来の出口戦略(廃業・承継)まで見据えて設計する
- 合同会社の場合は定款に持分承継の規定を入れておく
具体的な対策について解説します。
(1)資本金は1,000万円未満に設定して消費税免除を活用する
資産管理会社を設立する際は、資本金を1,000万円未満に設定するのがおすすめです。
資本金が1,000万円以上の場合は設立初年度から消費税の課税事業者となり、スタート直後の税負担が重くなる傾向にあるからです。
一方、資本金1,000万円未満で設立すれば、原則として消費税の負担を軽減できます。
ただし、インボイス制度の関係もあるため、免税事業者を選択するかどうかは取引先との関係による点に注意してください。
資産管理会社は対外的な商売をしない会社と説明されることが多いものの、不動産を貸す場合は話が別です。
居住用の家賃は消費税の対象になりにくい一方、店舗・事務所など事業用の賃料は消費税が関係します。
事業用賃貸がある場合は、インボイス登録の有無がテナントとの契約や消費税の負担に影響するため、設立前に整理しておく必要があるでしょう。
(2)個人資産の移転時にかかる税金を事前に把握しておく
個人から法人へ不動産を移転する場合、以下のような複数の税金が必要です。
- 登録免許税
- 不動産取得税
- 消費税(建物部分)
- 譲渡所得税
- 印紙税 など
これらの移転コストは物件の評価額によって数百万円規模に達することもあるため、事前に正確な金額を把握しておかなければなりません。
移転コストと法人化による税負担の軽減効果を長期的に比較し、トータルでプラスになるかどうかをシミュレーションしたうえで判断しましょう。
(3)将来の出口戦略(廃業・承継)まで見据えて設計する
資産管理会社は「設立したら終わり」ではなく、将来の廃業や事業承継まで見据えた設計が重要です。
廃業時には解散・清算の手続きが必要であり、残余財産の分配にはみなし配当課税が発生する可能性もあるからです。
一方、事業承継の場面では、株式の贈与・譲渡を計画的に進めることで税負担を抑えながらスムーズに資産を引き継ぐことができます。
設立段階から「最終的にこの法人をどうするのか」を明確にしておくことが、長期的なメリットの最大化につながるでしょう。
(4)合同会社の場合は定款に持分承継の規定を入れておく
資産管理のために合同会社を設立する場合は、定款に「社員の持分を相続人が承継する」ことを記載しておきましょう。
この規定がないと、社員が1人の合同会社ではオーナーの死亡時に会社が自動的に解散になる可能性があるからです。
相続対策として資産管理会社を設立したにもかかわらず、肝心の相続発生時に会社が消滅しては、その目的を達成することができません。
設立時に司法書士と相談し、定款の内容を十分に確認しておくことが重要です。
7.資産管理会社のメリットについてよくある質問

資産管理会社のメリットに関して寄せられることの多い疑問をまとめました。
- 給与所得者でも資産管理会社を設立して税負担を軽減できますか?
- 資産管理会社への資産移動はどのようにしますか?
- 資産管理会社を設立して相続対策をすることはできますか?
(1)給与所得者でも資産管理会社を設立して税負担を軽減できますか?
法律上、給与所得者が資産管理目的で法人を持つことは問題ありません。
もっとも、勤務先の就業規則に副業や兼業に関する制約が含まれているケースもあるため、設立前に人事規定を確認しておくことがおすすめです。
また、税負担が軽減するかどうかは会社の設立コストや資産から得られる所得額にもよるので、専門家に相談したうえで設立するかどうかを判断しましょう。
(2)資産管理会社への資産移動はどのようにしますか?
個人名義の資産を法人へ移す手段は、「売買」、「現物出資」、「贈与」の3パターンが代表的です。
売買は個人が法人に対して時価で資産を売り渡す方法で、最もオーソドックスな移転手段です。
現物出資は資産を資本金の一部として法人に拠出する方法ですが、一定額を超える場合は裁判所が選任する検査役の調査が求められるケースもあります。
どの方法でも登録免許税や不動産取得税が発生し得るため、トータルコストを比較したうえで最適な手段を税理士に確認することが大切です。
(3)資産管理会社を設立して相続対策をすることはできますか?
資産管理会社を活用した相続対策は、十分に有効な手段です。
個人で保有する不動産を法人に移転し、相続財産を株式という形に変えることで、評価額の圧縮や均等分割がしやすくなります。
さらに、生前に役員報酬として相続人に資産を分配しておけば、相続発生時の財産総額を計画的に減らすことも可能でしょう。
ただし、相続対策は個々の資産状況や家族構成によって最適な方法が異なるため、税理士や相続に詳しい専門家と連携して進めることが不可欠です。
まとめ
資産管理会社には、個人と法人の税率差を活かした税負担の軽減をはじめ、家族への所得分散、経費の幅の拡大、10年間の欠損金繰越など、個人運用では実現しにくい多面的なメリットがあります。
課税所得が800万〜900万円を超える水準にある方や、不動産を中心に資産を拡大している方は、設立を前向きに検討する価値がある方法です。
ただし、法人の設立・維持にかかる固定費、資産の流動性低下、長期譲渡所得の優遇税率を享受できない点など、デメリットも忘れてはいけません。
株式会社と合同会社のどちらを選ぶかも含め、自身の資産構成と将来の運用・承継プランに合った設計を行うことが、適切な資産管理に役立つでしょう。
監修者
稲葉 孝史
税理士
株式会社シルスフィア会計事務所 代表取締役。シルスフィア税理士事務所 代表税理士。
中小企業の会計税務業務に加え、SPCを利用した不動産証券化や事業再生などの特殊業務に従事している。過去には、不動産証券化協会(ARES)認定マスター制度の資格試験において、テキスト執筆や講師、試験問題作成委員などを担当した経歴を持ち、不動産証券化分野で豊富なノウハウと実績を有する。
株式会社シルスフィア会計事務所 代表取締役。シルスフィア税理士事務所 代表税理士。
中小企業の会計税務業務に加え、SPCを利用した不動産証券化や事業再生などの特殊業務に従事している。過去には、不動産証券化協会(ARES)認定マスター制度の資格試験において、テキスト執筆や講師、試験問題作成委員などを担当した経歴を持ち、不動産証券化分野で豊富なノウハウと実績を有する。