飲食店の売却方法を徹底解説|居抜き売却・M&Aの売却相場から手続きの流れまで
飲食店の売却方法には、居抜き売却とM&Aの2種類があり、売却される対象や売却価格の相場、手続きの流れが大きく異なります。
適切な方法で売却を行わなかった場合には、本来得られるはずだった売却益を逃したり、思わぬ法的トラブルに巻き込まれたりする可能性もあるため、注意が必要です。
この記事では、飲食店売却の基礎知識から具体的な手続きの流れ、費用・税金まで詳しく解説しています。
1.飲食店の売却とは
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飲食店の売却とは、経営している店舗の所有権や経営権を第三者に移転する行為を指します。
特に飲食店の売却に関して押さえておきたい以下の基礎知識について解説します。
- 飲食店売却の定義
- 売却と譲渡の違い
- 売却と廃業の違い
(1)飲食店売却の定義
店舗の内装・設備や経営権を第三者に有償で引き渡す飲食店売却は、その対象が非常に幅広く、厨房機器やテーブル・イスといった有形資産から、ブランド力やノウハウ、顧客基盤といった無形資産まで含まれる場合があります。
例えば、居抜き売却では主に内装や設備などの造作のほか、店舗や土地の所有権や賃借権(借家権)が対象となりますが、M&Aでは経営権や従業員の雇用契約まで引き継がれることがあります。
そのため、売却を検討する際は、まずは「自分が何を売りたいのか」を明確にしておくことが重要です。
(2)売却と譲渡の違い
売却と譲渡は、実務上はほぼ同じ意味で使われることが多い用語ですが、厳密には違いがあります。
まず、「売却」は金銭を受け取って所有権を移転する有償取引を指すのに対し、「譲渡」は有償・無償を問わず所有権を移転する行為全般を意味します。
具体的には、内装や設備を移転させる「造作譲渡」、事業の一部または全部を移転させる「事業譲渡」、会社の株式について行われる「株式譲渡」などがあります。
これらの用語を正しく理解しておくと、業者との打ち合わせや契約時のスムーズなコミュニケーションにもつながるでしょう。
(3)売却と廃業の違い
売却と廃業は、店舗を手放すという点では共通していますが、その結果は大きく異なります。
廃業を選択した場合、原状回復工事費用や設備の処分費用が発生し、数十万円から数百万円の撤退コストがかかるのが一般的です。
さらに、長年築いてきたブランドや顧客との関係も失われてしまいます。
一方、売却に成功すれば状況は大きく変わります。
撤退コストをゼロに抑えることができるだけでなく、売却益を得られる可能性があるからです。
また、M&Aであれば従業員の雇用を守りながら、店舗の歴史や味を次の経営者に引き継ぐこともできます。
こうした違いを踏まえると、閉店を検討する際には、まずは売却の可能性を探るとよいでしょう。
2.飲食店の売却方法

飲食店を売却する方法は、大きく分けると以下の2種類です。
- 居抜き売却
- M&A
それぞれの特徴について、以下で詳しく解説します。
(1)居抜き売却
居抜き売却とは、店舗の内装や厨房設備をそのまま残した状態で、次の利用者に売却する方法です。
特に賃貸店舗の場合に多いこの方法では、テーブルやイス、エアコン、厨房機器、照明器具などの「造作物」が主な売却対象となります。
居抜き売却は、開業希望者にとって、内装工事や設備購入の費用を大幅に抑えて開業することができるメリットがあります。
売主の飲食業に関する経営権や営業権までは譲渡の対象に含まれないため、賃貸店舗の場合には、買主(次の借主)は賃貸店舗のオーナー(貸主)と新たに賃貸借契約を締結し、自分の店として開業することになります。
売主(もとの借主)にとっては、原状回復工事が不要になるため撤退コストを大幅に削減することができ、さらに造作譲渡料を受け取ることができる可能性もあります。
(2)M&A
M&Aとは、店舗の事業や会社そのものを第三者に譲渡する売却方法です。
居抜き売却との最大の違いは、売却対象にあります。
M&Aでは、内装・設備だけでなく、経営権や営業権、従業員、顧客基盤、取引先との契約、ブランド力、ノウハウなど、事業に関わるすべてが譲渡対象に含まれます。
なお、M&Aの手法には主に「事業譲渡」と「株式譲渡」の二つがあります。
事業譲渡は事業の一部または全部を切り出して売却する方法で、個人事業主でも法人でも選択することが可能です。
これに対して、株式譲渡は会社の株式を売却することにより経営権を移転する方法で、法人のみが選択できる売却方法です。
収益性やブランド価値が高い店舗であれば、居抜き売却よりも高額での売却が期待できるでしょう。
3.飲食店の売却相場と価格が決まるポイント

飲食店の売却価格は、売却方法や店舗の条件などによって大きく変動します。
店舗を売却する際、適正価格についてのポイントとして、以下のようなものが挙げられます。
- 居抜き売却の相場
- M&Aの場合の相場
- 価格が決まるポイント
(1)居抜き売却の相場
居抜き売却の価格は、立地や店舗の広さ、設備の状態などによって大きく異なります。
一般的な目安として、都内の10〜30坪程度の店舗であれば50〜300万円が相場といわれています。
ただし、これはあくまで平均的な価格帯であり、条件次第では大きく変動する可能性がある点に注意が必要です。
例えば、駅から徒歩5分以内の繁華街にある路面店であれば、300万円を超える価格で売却できるケースもあります。
これに対して、メイン通りから外れた立地や設備が老朽化している店舗では、数十万円程度にとどまることも珍しくありません。
(2)M&Aの相場
M&Aによる売却価格は、その店舗の財務状況が大きく影響するため、居抜き売却よりも幅広い価格帯となります。
一般的には「時価純資産+営業利益×2〜5年分」という計算式(年買法)で算出されることが多いです。
2〜5年分のうち何年分になるかは、店舗の立地や業種・業態の人気によって決まります。
例えば、時価純資産が500万円、年間営業利益が200万円の店舗の場合を考えてみましょう。
この計算式に当てはめると、売却価格は900〜1,500万円程度が目安となりそうです。
ただし、時価純資産をどう評価するか、M&A後の想定年間営業利益をどう見るかにより差が出てきますし、実際の売却価格は交渉によって決まるため、この計算式はあくまで参考値となります。
店舗の集客力やブランド力、事業の成長性などが高く評価されれば、計算式以上の価格で売却できる可能性もあります。
(3)価格が決まるポイント
飲食店の売却価格は、複数の要因の組み合わせにより決定されます。
特に、以下の七つの視点が重要です。
- 立地
- 収益性
- 業態
- 設備の状態
- 顧客の評判
- 競合状況
- 売却理由
1:立地
立地は、飲食店の売却価格を左右する最も重要な要素の一つです。
例えば、駅から徒歩5分以内、繁華街の路面店といった好条件であれば、高い評価が期待できます。
特に人通りの多いエリアやオフィス街・商業施設の近くに位置する店舗は、ニーズも高く、購入希望者が早期に見つかる可能性も高いです。
反対に、駅から遠い立地や住宅街の奥まった場所にある店舗は、集客面での不安から評価が下がりやすいといえるでしょう。
2:収益性
M&Aの場合、買い手は投資回収の見通しを重視するため、過去の売上や利益率が売却価格に直接反映されます。
安定した売上を維持し、利益率が高い店舗ほど高額で売却できる可能性が高いため、財務諸表で収益力を明確に示すなどの工夫が必要となります。
赤字が続いている店舗は買い手が見つかりにくく、見つかった場合であっても売却価格が低くなる傾向があります。
3:業態
飲食店の業態によっても、売却のしやすさや価格は異なります。
例えば、居酒屋やラーメン店、カフェなど、開業を希望する人が多い人気業態は購入希望者が見つかりやすく、価格も高くなる傾向にあります。
一方で、専門性が高すぎる業態や特殊な設備を必要とする業態は、対象者が限定されるため、売却に時間がかかることがある点に注意しましょう。
4:設備の状態
店舗に備え付けの設備が清潔で故障がなく、直ちに使用することができる状態であれば、価格の決定の際に売主に有利になる可能性が高いです。
居抜き売却の場合には、買主はすぐに営業を開始したいと考えているため、追加投資なしで使用できる設備は大きな魅力となるでしょう。
店舗の設備では、厨房機器の動作状況や空調設備の年式、冷蔵庫や製氷機のコンディションなどが特に注目されます。
日頃からこれらの設備についてはメンテナンスを怠らず、良好な状態を維持しておくことが高値で売却を実現するためのポイントです。
5:顧客の評判
口コミサイトでの評価や常連客の存在は、ブランド価値として評価されます。
例えば、食べログやGoogleマップでの高評価のほか、SNSでのポジティブな投稿が多ければ、購入希望者に安心感を与えられる要素となります。
M&Aの場合には、買主が顧客基盤をそのまま引き継ぐことになるため、高評価を得ている店舗についてはニーズが大きいといえるでしょう。
これに対して、ネガティブな口コミが多い店舗は、評価が下がる要因ともなります。
居抜き売却による買主は、その立地で店舗の営業を行うため、前の店舗のネガティブなイメージを受ける可能性を考慮し、売却価格を下げるように交渉を行うケースもあります。
6:競合状況
同じエリアに競合店が多い場合は、価格交渉で不利になる可能性があります。
一般的に買主は出店エリアの競争環境を慎重に分析し、競合が少ないエリアほど高い評価を得やすいためです。
また、近隣に同じ業態の大手チェーン店が出店している場合も、現実的な競争リスクとして考慮されることがあります。
このほか、エリアの将来性や再開発計画なども、価格に影響を与える要素となります。
7:売却理由
売却理由は、買主の心理に大きな影響を与える要素です。
例えば、「新規事業への挑戦」といった前向きな理由であれば、買主に安心感を与えますが、一方で、「売上の不振」や「トラブルの発生」などのネガティブな理由による売却は、買主に警戒心を抱かせる原因となります。
特にM&Aによる店舗売却の場合には、そのことが事業に対してマイナスの評価を与え、売却価格にも影響を及ぼす可能性があります。
売却理由を聞かれた際は、虚偽の説明は避け、正直に伝えつつもポジティブな側面を強調するような工夫が必要となるでしょう。
4.飲食店を売却する際の流れ

飲食店の売却手続きは、居抜き売却とM&Aで大きく異なります。
ここでは、それぞれの売却方法の具体的なステップを解説します。
(1)居抜き売却の場合
賃貸店舗の場合に行われることが多い居抜き売却は、以下の流れで進められます。
- 賃貸借契約書・リース物件の確認
- 専門業者への相談
- 貸主への造作譲渡に関する承諾の取得
- 現地調査・査定
- 買主の募集
- 条件交渉
- 造作譲渡契約の締結
- 物件引渡し
それぞれのポイントについてもご説明します。
1:賃貸借契約書・リース物件の確認
居抜き売却を検討する際、最初に行うべきは賃貸借契約書の確認です。
契約書には原状回復義務の内容や範囲、造作譲渡の可否に関する条項が記載されています。
特に「造作譲渡禁止」の特約がある場合は、貸主の承諾なしに居抜き売却はできません。
また、リース契約中の設備がある場合は、残債の有無や契約の引継ぎの可否などの確認も必要です。
長くお店を続けてきた場合には、設備や什器の中にリース物件やレンタル品が含まれていることを失念するケースも見られます。
リース物件などを許可なく造作譲渡の対象に含めてしまうと、リース会社との間で法的トラブルが生じることもあるため、注意しましょう。
2:専門業者への相談
居抜き売却が可能な場合には、まずは専門業者に相談しましょう。
居抜き売却の専門業者であれば、売却の流れや概算価格について熟知しているほか、貸主との交渉についてもアドバイスやサポートを受けることができる場合があります。
この段階では複数の業者に相談し、対応の丁寧さや実績を比較検討することが重要です。
特に飲食店の売却に特化した業者を選ぶことで、より適切なサポートを受けることができるでしょう。
3:貸主への造作譲渡に関する承諾の取得
居抜き売却を進めるためには、貸主から造作譲渡についての承諾を得ることが必須です。
貸主の承諾を得ずに売却を進めてしまうと、契約違反として違約金を請求されるリスクがあります。
なお、貸主によっては、承諾の条件として新しい借主の審査や承諾料の支払いを求められるケースもあります。
どのような条件で居抜き売却を進めることができるかは、貸主との交渉次第という側面もあるため、専門業者のサポートを受けながら、丁寧に交渉を進めることが大切です。
4:現地調査・査定
貸主の承諾後、専門業者による現地調査と査定が実施されます。
業者は実際に店舗を訪問し、内装の状態、設備の種類と年式、動作状況などを細かくチェックします。
査定結果は立地条件や市場動向も考慮して算出されるため、業者によって金額に差が出ることも珍しくありません。
複数社の査定を受けた上で査定金額を比較検討し、適正な売却価格を把握しておくことは重要ですが、早期に買主が付くことを優先したい場合は、売却価格を柔軟に考えておく必要があります。
5:買主の募集
査定が完了したら、買主の募集が始まります。
専門業者は自社のWebサイトや居抜き物件専門ポータルサイトへの掲載、既存顧客への紹介など、様々な方法を活用して購入希望者を探します。
売却活動の際には、物件の魅力が伝わる写真や情報を用意することで、より多くの問い合わせを集めることが可能です。
募集期間は物件の条件によって異なりますが、人気エリアであれば数週間で買主が見つかることもあります。
しかし、立地などの条件が購入希望者とマッチングしない場合には、数か月の期間を要することもあります。
6:条件交渉
購入希望者が現れたら、具体的な条件交渉に入ります。
複数の購入希望者がいる場合は、提示された購入条件を比較しながら最適な相手を選ぶことが可能です。
交渉では売却価格だけでなく、引渡しの日や譲渡する設備の範囲、支払方法などについても話し合います。
また、その店舗で開業予定の買主は、内覧を希望するケースも多いため、退去日の直前まで店舗の営業を継続する場合は、営業時間外に内覧をする準備をしておきましょう。
7:造作譲渡契約の締結
条件交渉がまとまったら、造作譲渡契約を締結します。
契約書には譲渡する設備・備品のリスト、譲渡価格、支払条件、引渡しの日、設備の状態に関する確認事項などを明記します。
また、売却後のトラブルを防ぐため、設備の故障や不具合についても正確に記載しておくことが重要です。
引渡しが完了した後に契約書に記載がされていない不備などが見つかった場合には、売買代金の減額などを請求されるリスクがあるため、契約書類の作成には慎重さが求められます。
なお、契約書の作成についても、専門業者からサポートを受けることができるケースが多いので、疑問点や不安な箇所があれば、相談しながら進めることが大切です。
8:物件引渡し
契約に基づいて物件を引き渡し、売却代金を受け取ります。
引渡しの当日は、鍵や設備の取扱説明書、保証書などを買主に渡し、設備の動作確認を一緒に行うことが一般的です。
また、賃貸店舗では、造作譲渡契約とあわせて、貸主・新借主・旧借主の三者間で賃貸借契約の名義変更手続きも必要となります。
すべての手続きが完了すれば、居抜き売却は完了です。
(2)M&Aの場合
M&Aによる店舗売却では、売り手側の法人の株式が売却の対象となります。
そのため、以下のような流れで進められることが一般的です。
- M&A仲介会社への相談・契約の締結
- 企業価値の算定・査定
- 買い手募集・マッチング
- 秘密保持契約の締結
- トップ面談
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンス
- 最終契約の締結
- クロージング
1:M&A仲介会社への相談・契約の締結
M&Aによって店舗の売却を検討する際は、まずM&A仲介会社やM&Aの実績が豊富な会社に相談することから始めましょう。
売却の目的や希望条件、スケジュールなどをヒアリングし、最適な売却方法について提案を受けることができます。
仲介会社では、初回相談を無料で行っている会社も多いため、複数社に相談して比較検討するのがおすすめです。
特に飲食業界では、価格競争や原材料コストの変動などのリスクを踏まえ、買い手側も慎重になる傾向があるといえます。
そのため、飲食店や中小企業のM&Aに強い会社を選ぶことで、市場動向を的確に把握し、よりスムーズな売却ができます。
提案内容などを踏まえて、依頼する仲介会社を選んだ後は、その仲介会社と契約を締結します。
2:企業価値の算定・査定
仲介会社との契約後、財務諸表や事業計画などをもとにして、企業価値の算定が行われます。
正確な売上高や営業利益、資産・負債の状況、将来の収益見通しなどを総合的に分析し、適正な売却価格の目安を算出します。
スムーズに企業価値の算定を進めるために、帳簿や資料の整理は、査定前に準備しておきましょう。
3:買い手募集・マッチング
企業価値の算定が完了した後は、仲介会社のネットワークを活用して買い手候補の募集が始まります。
仲介会社は自社のデータベースや提携先を通じて、条件に合う買い手候補をリストアップします。
この段階では売り手の社名は伏せたまま、業種や規模、財務概要などの情報で買い手の反応を探るのが一般的です。
複数の買い手候補が見つかれば、より有利な条件での売却を期待することもできるでしょう。
4:秘密保持契約の締結
具体的な交渉に入る前に、買い手候補と秘密保持契約(NDA)を締結します。
秘密保持契約は、売り手の企業情報が外部に漏洩することを防ぐための重要な取り決めです。
この契約を締結することで、初めて社名や詳細な財務情報を開示できるようになります。
M&Aでは情報管理が非常に重要なため、秘密保持契約は必ず締結するようにしましょう。
また、秘密保持契約は早急に締結したほうがスムーズな売却活動ができますので、細かい文言にはこだわらず、大筋で合意できていれば締結に進めることが一般的です。
5:トップ面談
秘密保持契約の締結後、売り手と買い手の経営者同士が直接面談する「トップ面談」が行われます。
トップ面談では、事業への想いや経営理念、将来のビジョンなどを共有し、相互理解を深めます。
数字だけでは伝わらない店舗や事業内容の魅力などをアピールできる重要な機会です。
お互いの価値観が合うかどうかを確認する場でもあるため、誠実な対応を心がけましょう。
6:基本合意書の締結
トップ面談を経て大筋の条件で合意に至ったら、基本合意書を締結します。
基本合意書には、売却価格の目安、スケジュール、独占交渉権の有無、デューデリジェンスの実施などが記載されます。
基本合意書は最終契約ではないため法的拘束力は限定的ですが、交渉の方向性を確認する重要な書類です。
この段階で売却の見通しが立つため、従業員や取引先への説明準備も並行して進めておくと安心です。
7:デューデリジェンス
基本合意が成立した後には、買い手側によるデューデリジェンス(買収監査)が実施されます。
デューデリジェンスとは、財務・法務・事業面での詳細な調査のことで、売り手が提供した情報が正確かどうかを検証するプロセスです。
具体的には、帳簿や契約書、許認可の状況、労務関係、訴訟リスクなど、様々な観点から調査が行われます。
この調査で問題が発見されると、売却価格の見直しや交渉決裂につながることもあるため、事前に情報を整理しておくことが重要です。
8:最終契約の締結
デューデリジェンスの結果を踏まえ、最終的な売却条件を確定して契約を締結します。
最終契約書には、売却価格、支払方法、引渡しの日、表明保証、競業避止義務など、詳細な条件が盛り込まれます。
この契約には法的拘束力があるため、内容を十分に確認し、不明点は弁護士などの専門家に相談しましょう。
署名・捺印をもって、M&Aが正式に成立します。
9:クロージング
最終契約を締結した後は、クロージング(決済・引渡し)を行い、M&Aが完了します。
株式譲渡の場合は株式の譲渡と代金の支払い、事業譲渡の場合は事業用資産の引渡しと代金の支払いが同時に行われます。
クロージング後は新しい経営者による運営が始まりますが、一定期間にわたって引継ぎのための支援を求められることもあるでしょう。
これによって、自社が築いてきた経営理念やノウハウなどについてもスムーズに買い手側に浸透させることが可能です。
5.居抜き売却とM&Aそれぞれのメリット・デメリット

居抜き売却とM&Aには、それぞれ異なるメリットとデメリットがあります。
自店舗の状況や売却の目的に照らし合わせて、最適な方法を選択することが重要です。
以下では、両者の特徴を比較しながら詳しく解説していきます。
(1)居抜き売却のメリット・デメリット
居抜き売却によって店舗を売却するメリット・デメリットには、以下のようなものが挙げられます。
| 居抜き売却によるメリット | 居抜き売却によるデメリット |
| ・手続きが短期間で完了する傾向にある ・撤退コストを削減することができる |
・賃貸店舗の場合は貸主の承諾が必須 ・従業員の雇用を維持することができない |
居抜き売却の最大のメリットは、手続きが比較的シンプルで短期間で完了できる点です。
M&Aのような複雑な財務調査や法的手続きが不要なため、募集開始から売却完了まで1〜3か月程度で進むこともあります。
また、原状回復工事が不要となるため、撤退コストを大幅に削減できる点も大きな魅力です。
一方で、賃貸借契約に「造作譲渡禁止」条項がある場合は、貸主の承諾が得られず売却自体ができないリスクもあります。
さらに、居抜き売却では従業員の雇用を維持できず、長年ともに働いてきた従業員を解雇しなければならないことが、経営者の心理的な負担となることも少なくありません。
(2)M&Aのメリット・デメリット
M&Aによって店舗の売却をするメリットとデメリットには、以下のようなものがあります。
| M&Aによる売却のメリット | M&Aによる売却のデメリット |
| ・居抜き売却と比較して売却価格が高額になる傾向がある ・従業員の雇用を維持することができる |
・手続きが複雑で長期化する傾向がある ・必ずしも成立するとは限らない |
M&Aの最大のメリットは、事業価値全体を売却することができるため、居抜き売却よりも高額での売却が期待できる点です。
収益性やブランド力、顧客基盤といった無形資産も評価対象となるため、その価値を売却価格に反映させることができるでしょう。
また、M&Aでは従業員の雇用を継続することができ、長年ともに働いてきた従業員の生活を守りながら、店舗の歴史や味を次世代に引き継ぐことができます。
経営者にとって「自分が育てた店を残すことができる」という安心感は、金銭面以上の価値があるといえるでしょう。
一方、M&Aのデメリットは、手続きが複雑で時間がかかる点です。
企業価値の算定、買い手との交渉、デューデリジェンス、契約書の作成など、多くのステップを経る必要があり、売却完了までに3〜6か月程度を要することが一般的です。
また、赤字店舗や負債が大きい場合には買い手が見つかりにくく、売却自体が成立しないケースもあります。
6.飲食店売却にかかる費用と税金

飲食店を売却する際には、様々な費用や税金が発生します。
主な費用項目と税金については、以下の通りです。
- 仲介手数料
- 原状回復工事費
- 設備リースの残債整理
- 税金
- 退職金・在庫処分費など
(1)仲介手数料
仲介手数料は、専門業者に売却を依頼した場合に発生する費用です。
居抜き売却の場合、売買価格の10%程度または最低30万円程度が相場といわれています。
業者によって料金体系は異なるため、契約前に必ず確認しておくことが重要です。
M&Aの場合は、仲介会社によって手数料体系が大きく異なります。
成功報酬型が一般的ですが、着手金や月額報酬が発生する会社もあるため、複数社の料金を比較して選びましょう。
なお、不動産取引が伴う場合は、宅建業法に基づく「売買価格×3%+6万円+消費税」が仲介手数料の上限の目安となります。
(2)原状回復工事費
居抜き売却ができない場合は、スケルトン(原状回復)返却のための原状回復工事費が必要となります。
飲食店のスケルトン工事費用は、1坪あたり3〜10万円が相場といわれており、20坪の店舗であれば60〜200万円程度かかることもあります。
また、店舗の状態や契約内容によっては、さらに高額になるケースもあります。
居抜き売却が成功すれば、この費用を丸ごと節約することができるため、居抜きでの売却を目指すことが経済的に有利といえるでしょう。
ただし、買い手が見つからない場合に備えて、原状回復費用も予算に組み込んでおくと安心です。
(3)設備リースの残債整理
リース契約中の厨房機器や空調設備がある場合は、売却前に残債を整理する必要があります。
リース設備は自己の所有物ではないため、そのまま売却することはできません。
対応方法としては、残債を一括清算してリース契約を終了させるか、買い手にリース契約を引き継いでもらうかの2通りがあります。
買主がリース契約の引継ぎを希望しない場合は、売主が残債を負担しなければならないため、事前にリース会社へ確認しておくことが重要です。
(4)税金
店舗の売却によって利益が発生した場合は、その利益に対して税金が課されます。
個人事業主が事業譲渡を行う場合、売却益は資産の種類によって「譲渡所得」または「事業所得(総合課税)」として課税されます(株式譲渡の場合は申告分離課税の譲渡所得)。
法人の場合は、売却益がその事業年度の利益に算入され、法人税の課税対象です。
このように、売却を行った主体が個人あるいは法人かによって課税される税金が異なることにも注意が必要です。
また、税金の計算は複雑な場合が多く、誤った納税を行って、加算税や延滞税を課されるリスクを回避するためにも、売却前に税理士に相談しておくことをおすすめします。
(5)退職金・在庫処分費など
居抜き売却や廃業の場合は、従業員への退職金や未払い給与の精算が必要になります。
従業員を解雇する際は、30日前までに解雇の予告が必要です。
予告が30日に満たない場合は、不足日数分以上の解雇予告手当の支払いが労働基準法で定められています。
また、退職金制度がある場合は、その支払いも忘れずに準備しておきましょう。
これに加えて、食材や酒類などの在庫についても対応が必要となります。
在庫が残っている場合には、買主に引き継いでもらうか、処分するかを交渉で決めることになりますが、引き継いでもらえない場合は処分費用が発生することもあります。
まとめ
飲食店の売却には「居抜き売却」と「M&A」の2つの方法があり、それぞれ売却対象や手続きの流れ、期待できる売却価格の相場が異なります。
居抜き売却は手続きが比較的シンプルで短期間で完了できる可能性がある一方、M&Aはブランド価値を含めた高額な売却価格が期待できるでしょう。
売却を成功させるためには、賃貸借契約の確認、設備状態の開示、情報管理の徹底など、売却方法ごとに事前に適切な準備を行うことが欠かせません。
また、早めに行動を開始し、店舗の清潔感を維持しながら複数の業者に相談することで、より有利な条件での売却が実現できるでしょう。